出口の無い部屋

要はマジカオス。 初めていらっしゃった方はカテゴリーの〈はじめに〉をお読みください。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

【欲】 

ネガスイッチオン。

視野を変えればよかったのに、自分の不器用さはいつまでも嗤える。
欲っていうのは便利な言葉なんだよ。









 友人は彼に呼び出された。
「欲が、」
 ぽつりと彼は漏らした。
「うん?」
「欲が、出たんです」
 それきり、彼は口をつぐんだ。
 口元をきゅっと結んで、何も言わないようにしている。それを見た友人は、言いたいことを我慢する子供のようだと思った。
「欲?」
 首をかしげて彼を促す。彼は少しだけためらったように視線を伏せてから、どこかを真っ直ぐと見つめた。
「……欲です。諦めていたのに」
「話が見えない」
「諦めていたんです。望まれた立ち位置に立って、それ以上近づかないように」
 彼は熱病に浮かされたように言葉を続ける。友人の言葉など聞こえていない様子だった。
「自分よりも話したい人間がいれば、そこに場を譲って、良くあろう、良い友人であろうとしたんです」
 友人に残された選択肢は、彼の言葉を黙って聞くことだけ。
「でも、欲が出ました。羨ましくなったんです。私も、もっと近い位置に立ちたいと願ってしまった」
 彼は顔を覆う。泣いているのかもしれない。友人には、まったく何の話かわからなかった。分かるのは彼が欲を出したことを悔いているということだけ。
「望まれてもいないのに、近付こうとしたんです。近い位置に行きたいと思ってしまった。しかし、私には、共有できるものがない。近付くことを望まれていない。私はどうやっても近付けないんです」
 ふっと彼が顔を上げた。その眼に涙はなかった。友人はそれに安堵しながら、彼の口元がゆがんでいることに眉根をひそめた。彼は自嘲している。
「近付きたいなんて思わなければ、現状に満足できていれば、こんなに胸が痛むことはなかったのに」
「さびしい、のか」
 友人はそれだけ呟いた。話は見えないが、それだけ呟いた。彼は友人の言葉に頷いた。
「そうですね、望まれないことが。どうしようもないことだけに」
 どうしようもないと決めつけて、望まれてないと決めつけているのではないかと彼に友人は言いたかった。
「私は、どうあっても、友人としての度合いが違うんです。諦めなくては、ダメなんです」
 友人としての度合い。関係性。
 友人は、はたりと自身のことについて考えていた。
「欲なんて、出すものじゃない。拒まれていないことを幸いと思わなくては、いけないんです」
 友人には彼に言いだせるほどの勇気はなく、彼には決めつけを覆すだけの勇気がなかった。

 それだけの話。
〈モノカキ@短〉 | トラックバック(-) | CM(0)
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。