出口の無い部屋

要はマジカオス。 初めていらっしゃった方はカテゴリーの〈はじめに〉をお読みください。

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淵海・2 

昔のものだから結構手直ししよう。
途中放置。

後輩たちとのやりとりで仕上げる気になった。
実際仕上がっているかと聞かれれば、
首を傾げる。

エセ関西弁を許せる方のみ
追記からドウゾ。


      2・顔合せ 

 俺は、別に低血圧というわけではないが。
 朝というのはどうにも身体がだるい。
 ぐちぐちとそんなことを考えながら、廊下を渡って自らの仕事場に行こうと、無理矢理歩みを進める。
「九鬼隊長。」
「ああ?」
呼びかけられ、うめくように声を上げて見返ると、若緑色の髪を首の付け根の辺りで括った、少年とも青年ともとれる男が後を追ってきた。
「お前か、光政(みつまさ)。何の用だ?」
俺は、立ち止まってぶっきらぼうに用件を聞いた。
「うわ、くっきー、朝からテンション低! 隊長のくせに隊服の前、開けとるし。」
 光政は口元に手を当てて数歩、後退りをする。声色は何処までも軽い。
「そのふざけた呼び方はやめろと、再三言っているはずだぞ、堂島隊長殿。」
「ほんまにテンション低いんね。ワイがつまらんやないか。」
俺と同じく、一部隊の隊長であるはずの光政は、子供のように唇を尖らせた。
これ以上関わるのは時間の無駄と悟って俺は、踵を返した。
「わ、わ、わ、ちょお待ちー九鬼。」
光政が慌てて、ついて来る。俺は胡乱げにそれをかえり見た。
「何の用だ? わざわざついて来るからには、それなりの用があるんだろう?」
 光政は大きな琥珀色の瞳を二、三度瞬かせる。
「おう。今日、君の隊に入隊する子がどないな奴なんか、見てみたいんよ。」
 俺は、ちらりと一瞥した。それに気付いているのか、向こうはニコニコしてこちらの顔を覗き込んでくる。
「君の隊に入るお・ん・な・の・子が、な。」
 琥珀色の瞳に、深緋の髪の男が顔をげんなりさせているのが映る。
「言うな。」
「相変わらず女の子嫌いやねぇ、くっきー。」
 両腕を頭の後ろに回して光政がこちらを見上げてくる。俺は、腕を組んで立ち止まった。
「俺の隊は、お前の隊と違って武器戦闘が主体の隊だ。慣れるのに時間がかかって足を引っ張られるのが面倒なだけだ。」
「――とか何とか言うて実は、くっきーがフェミニストで女の子の入隊は危ないと思っとって嫌だったりとかー、女の子との接し方がわからんちゅー純情だったりは――」
「すると思うか?」
 人差し指をくるくるとまわして言う光政に、俺は半眼で問う。
 ぴたりと指が停止した。
「……思わんけど。」
 ため息をついて歩みを再開した。
 光政は文句を言いながら、視線を横の俺から前に向けた。
「――あ。あの子か?」
光政が前方を指差す。目が良いなとこぼして、俺も前を見据える。
 月夜の湖面を思わせる、長い烏羽色の髪を、紅色の紐で高く一つに結い上げた人物が、俺の隊長室――仕事場になっている――の前に立っている。隊服に身を包まれた身体はすらりとしているが、折れそうな感を欠いたある種のたくましさを感じさせた。
「なぁー、君。」
 そのまま歩みを進めて少し近付いた後、光政が声を出した。
「はい?」
若干低めの声ではあったが、それは紛れもなく女のものだった。振り返ったために、女の腰に佩いた刀が音を立てる。
「入隊の子やね?」
 光政は、俺の隣からいつの間にか女の隣に移動していた。女の背は光政より少し小さいようだ。
「はい。そうですが……」
長めの前髪から岩群青の瞳が見てとれた。
「そないなら――」
 不意に短い電子音が鳴った。続いて俺と光政の襟章から、通信が入る。
「堂島隊、九鬼隊、両隊に通達。現界(げんかい)にて、邪哭(じゃこく)出現。日羽隊が交戦中。鏡界・西173,46に転送。堂島隊は、こちら側の門の固定。九鬼隊は、転送された邪哭の始末を。繰り返す――」
「なんやねん、ぶっすいやねー。」
あからさまに眉をしかめて光政がわめいた。
「言ってる場合か。とっとと行け。」
光政に蹴りを入れつつ、女に向き直る。
「おい、お前。今の通信は聞こえたな? 行くぞ。」
「は!」
いきなりそう命じたのだが、女に慌てた様子はなく、機敏に反応した。



 邪哭。形状は様々だが、どの邪哭も一様に、人の魂と血肉を喰らおうとする。
 それを殺す【機関】。俺は、そこで一隊長をやっている。
「くっきー、鏡界側の門の固定完了、すぐ来るで。」
 光政が手に持つ錫杖を地に付けた。錫杖の環が甲高い音を奏でる。
「ああ。隊員ごと下がってろ。」
 邪哭は、人を喰らうために、普通の人間の住む【現界】に現れる。そして、機関は、それをこちら側――【鏡界】に送り、始末してきた。
 今日のこととて日常の一ページというやつだ。
 地面には、複雑な幾何学的模様が、光政の隊によって描かれた。
 やがてそれが仄白く光を帯び、空気に静電気のようなものが混ざる。
 それを捉えて、俺は自分の腰で鞘に収まっていた双剣を抜いた。それに合わせて、通信を聞いて来た当直のものたちもそれぞれの武器を構える。
 地に付いたままの光政の錫杖が震えた。
――無音の閃光。
 陶磁器で出来た猫が模様の中心に現れた。
 体長は三、四メートルはあるだろう。大きな口からは赤い舌が覗き、だらだらと涎が地面に滴る。鋭く尖った牙と邪哭特有の紫の爪は、十分すぎるほどの殺傷能力を持っているだろう。俺はそれを見て、腰に手を置き溜め息をついた。
「雑魚か」
 転送の陣が消えるまでに、隊長である俺は指示を出さなければならない。
 その中、何故かまだ刀を抜いていない女が目に入った。
「……おい、行ってこい。」
 女に顎で示した。
「試しだ。今どれだけやれるか見てやる。十数秒したら代わる」
 後ろで、部下たちが何かを言っていた。おそらくは無茶とかそういう類のものだろう。
 新しく機関に入った人間がいきなり戦えるわけがない。
 しかし、いきなり俺の隊に入れられたのだ。急だろうと無茶だろうと慣れてもらわなければならない。
「わかりました。」
 意外にも女はすぐに頷き、俺の脇を通り抜けて行った。
 無知なのか無駄なプライドなのか自棄なのか。
 十数秒うんぬんと口にはしたが、俺はいつでも飛び出せるように柄を握り直した。
 転送と若干の時間稼ぎの役目を終えた紋様が消え、陶磁器で出来た猫は、一番近くにいた女に狙いを定めた。大きく振り下ろされた右前足を、女は横に跳んで避ける。
 地面が割れ、破片と土煙を生み出す。ぐるぐると喉から響くうなり声があがる。
 邪哭も俺たちと同じく、土煙で様子がよくわからないのだ。
 破片によって負傷していないか、どこにいるのか、俺も視線を巡らせる。くすりと軽く誰かが笑った気がした。
 思案と模索の最中、立ちこめる土煙の帳からしっかりとした足取りで女が現れた。ある程度まで邪哭に近づくとピタリと立ち止まる。刀を抜かず腕をも下ろした、ノーガードの姿勢。
「フシアァアアアァァァァァアアア!」
 邪哭の鳴号が響き渡った。大きくあぎとを開いて飛び掛ってくる。
 何をしているのか。俺はそう言葉にする前に飛び出そうとしたが、それと同時に女が動いた。
 威嚇するように女が両腕を大きく広げる。
「炎天の焔、焼き尽くせ」
 天をも焦がすかという火柱が邪哭を包み込む。獣のもがき苦しむ声がごうごうと燃え盛る音の中で洩れ聞こえた。
しかし、すぐにその叫びは聞こえなくなり、火柱が消える頃には黒い跡が地面に刻まれていた。
 それは、【知暁式】(ちぎょうしき)と呼ばれる、自然界の力を操る術。
 鏡界に来た人間がすぐに使えるものではない。
「お前、何者だ?」
 双剣を鞘に収めて発した俺の誰何に、女はにっこりと笑って答えた。
「初めまして。本日より九鬼隊に入ります、ライネと申します。突然変異で、さして修行を積んでいないのに知暁式を扱えます。どうぞ、以後よろしくお願いします。」
 ライネと名乗った女は長身を丁寧に折った。

2・顔合せ
  了
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